シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「それじゃあ、僕たちもこれで。ハル、行くぞ?」

「ほーい」

「……あっ」

 ーー今さらだけど。

「あの、津島さん」

「うん?」

「私、津島さんのフルネーム、初めて知りました」

「え。……ああ。そう言えばそうだよね? 学校じゃいちいち下の名前まで名乗る事なんてしないから」

「てかさー、りぃ兄」

「なんだ? ハル」

 それまで後ろの方にいたハルくんが津島さんに近付いて言った。

「このお姉さん、職場の人だったんだ?」

「ああ、そうだよ? 地下の購買部で働いてる水嶋さんだ」

「あの、水嶋 沙耶です」

「……ふぅん、沙耶ちゃんか。やっぱり可愛いねっ」

 クシャッとハルくんが顔を崩して笑い、その様を見てやっぱり学生みたいだなぁ、と思った。

「あの。実は気になってたんですけど、津島さんとハルくんは……」

 どういう知り合いかというニュアンスを汲み、津島さんが「ああ」と息をついた。

「ハルは母方の従兄弟(いとこ)なんだ。今日はハルの買い物に付き合うために来ててね?」

「そうそう、スーツを買いに!」

「……お前、俄然やる気になったなぁ?」

 まぁねー、と言ってハルくんが調子づいてキシシと笑う。

 不意に私と手を繋ぐ颯太の手に、グッと力がこもった。

「あ。ごめんね、颯ちゃん。疲れたよね?」

 颯太は「ううん」と首を振るものの、表情は暗かった。
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