シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 新入生の洋裁道具を組む度に、西店のフロアに段ボールが溜まり、それを捨てるために私は外へ出た。空を見上げて息をつく。

 三月は猫の目のように天気が変わる月だ。

 冬から春に移り変わるその月の半ば、仕事帰りに鳴海くんと待ち合わせをして、その日限定で外食をした。ホワイトデーのお返しを兼ねてのデートだ。

 十四日、初めて彼に貰ったトレンチコートに袖を通した。子持ちの私が着るには可愛すぎないかと思ったけれど、鳴海くんは「似合う」と言って喜んでくれた。

 三月初旬にクローゼットに仕舞い込んだままの紙袋を出し、何とも言えない重苦しい気持ちを抱えていた私は、袖を通す前にクリーニングに出した。

 先に臼井さんが着たコート、ただそれだけの事でそのまま着るのに抵抗感があった。

 春の陽気に雨が混ざるような、移り気な気持ちだったと思う。

 四月になると、白くぼんやりとした花曇りの空が続き、私と祥子さんは新年度を迎えた。

 四月十日、新入生への用品販売日の事だ。例年、この日は新入生でごった返す日だそうで、朝から夕方までお店を閉める事なく開け続けている。スケットに事務員の増本さんと社長が加わり、てんやわんやの一日だった。

 夕方六時半でお店を閉めて、先に帰る社長と増本さんに「お疲れ様でした」と挨拶をした。私と祥子さんも休憩室で着替えを済ませ、学校を出ようとした時。

 ーーあ。スマホが無い。

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