シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「沙耶さん、ごめんね? あの時本当はもっと早くに連絡出来たんだけど、色々話してたら遅くなって」

「ううん。どうせ颯太が連絡しないでって嫌がったんでしょ?」

「……まぁ、……うん。そうだね」

 鳴海くんは頬を掻き、曖昧に頷いた。

 大体の事は予想出来る。電車で遊びたいの気持ちが、電車が欲しいのわがままに変わって、パパがいたら買って貰えるのに、と颯太は私の痛い所を突いてきた。

 あの苛立ちを抱えたままで鳴海くんに会ったのは、あの子にとって心底バツの悪い出来事だっただろう。

 思考を中断するかの如く、リズム良く轟音を打ち鳴らして電車が停まった。

「……颯太くん。保育園でも結構色々な事を言われてたみたいだよ」

「え」

「自分にだけパパがいないのは、何かの罰なんじゃないかって。あの幼さで真面目にそんな事を考えてた」

 私はふと、あの日の夜の事を思い出していた。颯太が溶連菌で寝込んだ前日、お友達との(いさか)いに関して、私は親として掛ける言葉を見つけられなかった。

 あの歯痒い想いを、鳴海くんも受け止めてくれたんだ。

 人の波に沿って車両に乗り込み、電車はまた重い音を響かせた。

「ママの言う"パパは亡くなった"って言葉も、実は嘘だって気付いてるみたい」

「……。そっか」

 何となく、そんな気はしていた。私と話す手前、私がそう言い切っているからか、あの子はその嘘を聞き入れてくれている。
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