シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「颯太くん、家にパパの写った写真が一枚も無いのはおかしいって。でもそれを言うと家族のみんなが困るから言えないんだって……あの子まだ小さいのに、色んな事抱えてる。
 あの日は沢山話を聞いて、少しだけ言葉を掛けて……それで連絡が遅くなったんだ」

「そうだったんだね」

 徐々に加速していく車窓を見つめ、鳴海くんは「うん」と静かに答えた。

「ねぇ、鳴海くん」

「うん?」

「少しだけって。颯太にどんな言葉を掛けてくれたの?」

 私は颯太の悩みに対して、あの時何て言ったらいいのかを言い淀んだ。「颯ちゃんは良い子」「いつも頑張ってる」、そんな言葉しか浮かばなかった。

 鳴海くんは眉を下げ、「あぁ」と嘆息した。

「知りたいと思う事を焦っちゃ駄目だって。そう伝えたよ」

「……え」

 ーー知りたいと思う事を……?

「物事にはちゃんと順序があって、颯太くんの悩みを解決するのにも、ちゃんと順番がある。何でパパがいないの、とか、何でママは嘘をつくのっていう…"何で"を焦ってぶつけたら、結果的にはママを傷付ける事になるんだよって。そんな事を話したかな」

 鳴海くんの言葉を胸の内で反芻し、心に深く染み入るのを感じた。

「ママを困らせたり、悲しませたりするの。やっぱり凄く堪えるんだろうね? あの子は頭が良くて、本当に良い子だ」

 そう言って穏やかに笑った彼の表情(かお)が妙に大人っぽくて、キュッと胸の奥が痛くなる。

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