シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 言いながらいつも肩に掛けている黒い大きな鞄を下におろし、もう一つ担いだ細長い筒ーーアジャスターというみたいーーを鞄の上に置いていた。

 アジャスターの中にはいつも買う模造紙を入れているそうで、家でも服の型紙を書いたりするのかな、と考えた。

 走り出しの電車がガタンと揺れ、私はドア付近の手摺りにつかまった。

 駆け込み乗車をした鳴海くんもすぐ側に立っている。車内がそこそこ混んでいるので、どうしても彼との距離は近くなる。

 ーー鳴海くんって、背高いよね。175センチぐらいは……あるかな?

 だったら私と二十五センチも違う。

 って言うか、どこの香水だろう。このサッパリした香り、好きかも。レモンのような、グレープフルーツのような……。

 無意識に鳴海くんをジッと見てしまい、「沙耶さん?」と急に声を掛けられた。

「あ。ゴメン、なに? ぼうっとしてた」

 既に名前呼びも板に付いていた。

「え、あ、いや。ジッとこっち見てるから、俺なんか変かなって気になって」

 鳴海くんは照れながら、白金の髪を触った。

「別に変じゃ無いよ。いつもちゃんとお洒落してて、偉いよね?」

「え…….」
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