シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「これでも一応、彼氏・兼、婚約者だから。ヒトの物にちょっかい出すの、いい加減やめてくれない?」

 ハルくんは腹立たしそうに、彼を睨みながら舌打ちをついていた。

「おーい、皆川! 何やってるんだよ、電話鳴ってるぞー?」

 事務局から津島さんが出て来て、様子を察し、ため息をついた。

「すみません、津島さん」

 言いながらハルくんが事務局に戻って行く。鳴海くんを睨みつけ、チッ、とまた舌打ちを残していた。

「アイツ……隙あらば沙耶さんに触りやがって」

 彼の抱きしめる手がフッと緩み、途端に解放される。抱きしめられるのがかなり久しぶりなせいか、心臓がバクバクと暴れ回っていた。

「沙耶さん、アイツには気をつけた方がいいよ? いつ押し倒されてもおかしくないから」

 ーーえ。

「押し倒すってそんな、痴漢みたいに…」

 言ってすぐに、「ンンッ」と祥子さんの咳払いが聞こえた。

「沙耶ちゃん? 仕事」

 レジを見ると、いつ来たのか一年生のマリリンちゃんが釦の箱を持ちながら目を丸くしていた。

「え、あ。ごめんなさいっ」

 急いでレジ前に入った。鳴海くんは開けっ放しの休憩室に入り、スチール棚に紙袋を置いている。空のお弁当箱を返しに来てくれたみたいだ。

「マリリンちゃん、ごめんね。どの釦かな?」

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