シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 立ち止まり、俯いた顔を無理やり上げられて、視界が滲んだ。

「だったら何でそんな顔してんの? アイツに何された?」

 鳴海くんの瞳は心配と怒りを物語っていた。「違うの」と呟き、涙が溢れ落ちた。

「ハルくんには…ただ抱きしめられただけ」

「……抱き、!?」

「抱きしめられて、動けなくて。……自分じゃどうする事も出来なくて。それが、怖くて……。
 でも、結果的に、ハルくんをめちゃくちゃ傷付けた。正直それがキツくて……私っ」

「…….沙耶さん」

「だって、あの人が鳴海くんの事悪く言うから、それが許せなくて。もっと前から、ちゃんと断ってれば、あんな風にはならなかったのに……っ、うぅっ」

 それから鳴海くんに宥めすかされて駅へと向かった。電車の中でも、別に泣きたくもないのに自然と涙が溢れて、その都度彼の腕の中へ顔を埋めた。

 駐輪場から自転車を出して帰路をトボトボ歩いていたけれど、心の中はぐちゃぐちゃに入り乱れていて、即座に足が止まった。

「……沙耶さん?」

 ーーこんな気持ちのまま、颯太の元に帰りたくない。

「ごめん。鳴海くん。……先、帰ってて?」

「……は?」

 踵を返し、自転車にまたがった。

「……って、ちょ、沙耶さんっ!」
< 308 / 430 >

この作品をシェア

pagetop