シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 澤野くんはすれ違いざま、「おはよー、沙耶ちゃん」と言って別館へと走って行った。

「じゃあ沙耶さん。今日はもうここで」

 ーーえ。キスは?

「お弁当、いつもありがとう」

 既に渡した紙袋を上げて、鳴海くんがニコッと笑う。

「……あ、あぁっ! うんっ。頑張ってね?」

 勝手に期待していた自分が恥ずかしくて、顔の中心からたちまち熱が広がった。私は俯きがちに右手を挙げた。

 その時、突然右腕を掴まれグイッと引き寄せられる。その勢いで鳴海くんの胸板に顔を埋めてしまった。

「そんな可愛い顔して、沙耶さんズルいなぁ…」

 ーーえ。

「今日バイト無いから一緒に帰ろっか?」

 耳元でそっと囁かれ、また心臓がばくばくと騒ぎ立てる。うん、とどもりながら返事をするものの顔は上げれない。

「その時たくさんキスさせてね?」

 ーーッ!!

 鳴海くんはニヤッと口角を上げて笑い、チュ、と私の頬にキスをした。

「じゃ、またお昼に購買行くね?」

 私は真っ赤な顔で固まり、階段を昇って行く彼を唖然と見送った。

 ーーなんだろう。なんか……。

 鳴海くんに、付き合ったばかりの余裕が戻ってきた、感じ??

 颯太との関係も良好だし、父と母にも気に入られた事で、鳴海くんは本来の肉食系な面を発揮させているように思えた。
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