シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「臼井ならバレンタインの時に告白されたけど、断ったから」

「え」

 ーーそうだったんだ? いつの間に。

「ちなみにさっきの彼氏だってさ。夏休みから付き合ってるらしいよ?」

「へ、へぇ〜……」

 なんだ、と拍子抜けしてしまう。私の知らない間に、そんな事になってたなんて。

「沙耶さん、そんな事気にしてたの?」

 若干嬉しそうに問われて、う、と口元を歪ませる。

「ねぇ沙耶さん、教えてよ、ねーねー?」

 面白がって横でツンツン突っついてくる鳴海くんをスルーして、私は無言でまた模造紙を巻きにかかった。

 *

 穏やかな日常が流れ、購買勤務を始めてからはや一年が過ぎた。

 十月、金木犀の甘く芳しい香りが微弱になった頃。嬉しい報せが二つ舞い込んだ。

 一つ目は、鳴海くんが志望する企業からの内定を貰えた事だ。四月からようやく社会人として働ける事に、彼は歓喜していた。

 就職祝いにご飯でも食べに行こうかと計画して、日曜日のお昼に颯太を連れてイタリアンのお店にも出掛けた。

「まだ卒業制作があるから忙しいけど、それが済んだら実家と……あと沙耶さんの家にも、ちゃんと挨拶に行こう?」

 そう言って鳴海くんはグレーの瞳を細めた。

 そして半ばを過ぎた頃、二つ目の喜び事が到来する。

"……コンコン"
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