シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 祥子さんはレジ前に座りながら、渇いた笑みを浮かべた。可愛いね、と言い放つ彼を見て、私はため息をついた。

「澤野くん」

「うん?」

「あんまり度が過ぎると……愛梨ちゃんに言いつけるよ?」

 澤野くんはウゲ、と顔を歪め、「それだけはやめて」と言った。

 愛梨ちゃんが大好きな癖に、何故にあの子はああも女好きなのか……。

「ファッションの学校なだけあって、みんなお洒落ですねー? 今の澤野くんといい、イケメンが多いし!」

 香帆ちゃんはミシン糸の品番を見ながら、ウキウキして言った。聞くと彼女は最近彼氏と別れたばかりのフリーらしい。

「お疲れ、沙耶さん」

「あ」

 五枚巻きの模造紙を取り、鳴海くんがレジに並んだ。

「朝買いに来るの珍しいね?」

「うん。模造紙切れてたの忘れちゃって」

 そう言って祥子さんに百円を渡す。「じゃあ急ぐから」と言って、鳴海くんは階段を駆けて行った。

「さっきの人もイケメンですねー…」

 目の保養だと言わんばかりに香帆ちゃんがため息をついた。それを見てすかさず祥子さんが「仁くんは駄目だよ?」と注意する。

「……仁くんっていうんですか?」

 何が駄目なの、と香帆ちゃんは不思議そうにする。

「仁くんは沙耶ちゃんの婚約者だから」

「えぇっ!」
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