シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 鳴海くんは口角を上げ、細めた横目を向けた。

 五階で止まり、鳴海くんと廊下に出ると、見知った学生たちと目が合った。「あ、沙耶ちゃん」と言って、みんな驚いている。

 教室の壁も廊下も、落ち着いたベージュの色合いで統一された空間だ。つるつるとしたビニル系の廊下を歩き、端から二つ目の教室へ案内された。

「あっ、沙耶っち来たね〜」

 そばに愛梨ちゃんと澤野くんが寄って来て、事情も分からず笑みを浮かべる。二人のみならず、あと数人、見知った学生たちが(ほうき)やゴミ袋を手に後片付けをしていた。

「先生、連れて来ました」

 そこには購買を開けている時間、いつも給湯室へ煙草を吸いに行く山本先生の姿があった。

「あ。山本先生、お疲れ様です」

「ああ、沙耶ちゃんお疲れ」

 どうして呼ばれたのか分からず、私は鳴海くんと先生を交互に見て首を傾げた。

 ふと気付くと先生の隣りに、薄紫色の布を被せた物体があり、私はそれを見て数回瞬きをした。

 ーー何だろう? 何かのオブジェ?

 三角形に被せられた布は若干仰々しく、大きな物体だ。

「それじゃあお披露目といこうか。鳴海、そっち持って?」

「はーい」

 二人で声掛けをし、せーの、で"それ"が(あらわ)になった。
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