シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「駐車場に車停めて来るから、先に始めててね?」

「そうね、分かったわ」

 さぁどうぞ、と彼女が勧めてくれるスリッパに足を入れ、居間へと案内される。

 可愛らしくて、とても感じの良いお母さんだ。私は密かに息をつき、胸を撫で下ろした。

 用意された座布団に、鳴海くんと颯太が座り、テーブルに置いたリモコンでテレビを点けた。「ぼくアニメが見たい」という颯太の要望に「アニメかぁ。やってるかな?」と鳴海くんがチャンネルを回している。

 私はお母さんに声を掛け、手土産に持参した和菓子を渡した。「まぁ、ご丁寧にありがとう」と彼女はまた頭を下げる。

「いえいえ、お口に合えば良いんですけど」

 恐縮の思いで手を振ると、お母さんは包容力のある笑みを浮かべた。

「あなたが仁の言ってた"サヤねーちゃん"ね?」

 ーーえ。

 不意にドキンとし、私は曖昧に頷いた。

「どんな女の子だろうってずっと気になってたのよ? あの時は仁の側にいてくれて本当にありがとう」

 再三頭を下げられ、「いえ、そんな」と慌てた。

 お母さんが言っているのは、今から十年前の、あの病院での出来事だ。小学生の彼が腹痛に苦しむ場所に、偶然居合わせた事を感謝され、居た堪れなくなる。
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