シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 八時半を過ぎたところで、颯太がテレビを見ながらウトウトと船を漕いでいた。

 鳴海くんが来ていた事でまだお風呂に入れていなかったので、しまったなと思うが、仕方なくパジャマにだけ着替えさせてベッドに寝かせる。

 二階から降りて来た所で、リビングから父の声が漏れ聞こえた。

「沙耶と颯太は嫌がるかもしれないけど……籍を入れて共に暮らすのは二年でも三年でも先で良い。それまで沙耶を妊娠させないと、ここで約束して欲しい」

 ーーえ。

 入るに入れない内容で、私はドアノブを掴めずに躊躇していた。少しの沈黙が室内を満たし、鳴海くんが「分かりました」と返事をした。

「必ず、約束します」

 鳴海くんの口調は断固としていた。

 三月には今のアパートを引き払い、四月からはここから大分離れた勤め先の、社宅に住むと彼は言っていた。

 そこで一年の下積みを積んでから、安定した生活が送れるようなら籍を入れよう、と。就職先が決まった時にそう話していた。

 鳴海くんとの距離がまた遠ざかるけれど、これは仕方のない事だ。

 それに、父の言い分だって理解出来る。

 子持ちの私が、新卒の彼と結婚するには、まだまだ時を重ねなければいけない。

 私は俯いた顔を上げ、よし、と喝を入れてから、ようやくドアノブに手を掛けた。

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