シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
30.愛に満ちた生活
「……あっ」
ーー今、蹴った。
大きく迫り出したお腹を見下ろし、私はそっと手を当てる。そろそろ予定日が近い。歩き慣れない道を慎重に進み、青信号に変わったのを確認してから、また足を出した。
鳴海くんが卒業した年から五年が過ぎた。二年前に無事、仕事の落ち着いた彼に合わせて入籍し、家賃の手頃なマンションへ引越しも済ませた。新婚生活を始めてちょうど一年が過ぎた頃、彼の子供を妊っている事に気付いた。
私はスマホを手に、周囲を見回した。道は合っているはずと首を捻る。初めて訪れるカフェをスマホを頼りに探していた。
お洒落な店舗が立ち並ぶ街道で足を止めていると、少し離れた場所から「沙耶ちゃん!」と名前を呼ばれた。あ、と顔を綻ばせ、彼女の元に小走りで向かう。
「すみません、お待たせしました」
「走ると危ないよー?」
そう言って祥子さんはさっきまで座っていた白い椅子に腰掛けた。彼女の向かいに重い体を下ろし、足元に置かれた籠に荷物を入れる。ふぅ、と吐息を漏らした。
右に左に首を振り、お洒落だな、と思った。
風の流れが心地よいオープンテラス席だ。開放感のある雰囲気で、五月の程よい気温にはうってつけの場所だ。
「もう大分大きくなったねー? 予定日いつだっけ?」