シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?



 小五の秋だった。母親が知り合いのお見舞いに行くからと言って連れられた、総合病院のだだっ広い待合室で、急激な腹痛に襲われた。

 それまでに数回予兆みたいなものは有った。まさかそれが盲腸に繋がるとは思っていなかった。

「……あの。キミ、大丈夫?」

 透明感のある声で、隣りから声を掛けられた。痛みに耐えながらも目を向けると、見ず知らずのお姉さんが心配そうに眉を寄せていた。

「お母さんは?」と近くに母親がいない事を問われ、外に電話を掛けに行ったと伝えた。すると、お姉さんはスッと立ち上がり、側を通りかかった看護師さんに俺の事を伝えてくれた。

 看護師さんは俺の状況を把握して、すぐに診察の手筈を整える。

「もう少しだから頑張るんだよ」

 そう言って親切なお姉さんは慈愛に満ちた微笑みで励ましてくれた。

 今から五年前の事になるし、あの時は苦痛に耐えるのが精一杯だったので、記憶は曖昧で朧げだ。

 でも、会計を待っていたお姉さんは「ミズシマ サヤさーん」という呼び掛けに恥ずかしそうに立ち上がり、返事をしていた。

 名前はミズシマ サヤさんだと覚えた。愛称を込めて、心の中でサヤねーちゃんと呼ぶ事にした。
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