シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 香水売り場で何が良いのかさっぱり分からず立ち往生していると、人の良さそうな女性店員さんに声を掛けられた。どんな香水をお探しですか、と。俺は羞恥のかけらもなく、開けっぴろげに尋ねた。

 店員さんはそれじゃあと言って、沙耶さんの特徴を事細かく尋ねた。そして、一つの香水を勧めてくれた。メンズ、ではなく、レディースの香りらしい。

 店員さん曰く、「そういう可憐な女性には大概ウケる香りだから」だそうだ。

 翌日から香水をつけてみる事にした。確かに良い匂いだと思った。

 レモンのようなグレープフルーツのような瑞々しい柑橘系の香り。個人的に好きだと思った。沙耶さんがつけていたら間違いなく吸い寄せられる。

「あ。仁から良い香りがするーっ、どうしたの? どこの香水?」

 つけてすぐ反応したのは、彼女の愛梨だ。「あ、いや」と曖昧に返事をする。

 どうしよう、と後ろめたい気持ちに襲われた。香水は愛梨のためじゃなく、沙耶さんのためだ。

 沙耶さんが既婚者かもしれないという問題も、俺が愛梨の彼氏だという問題も、何も変わっちゃいない。

 沙耶さんに心変わりをした時点で、俺は愛梨にサヨナラを言わなくちゃいけなかったのだ。

 ***

< 415 / 430 >

この作品をシェア

pagetop