シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか？
　ううん、と穏やかな笑みで、彼女は首を振る。

「いてくれるだけで良いんだよ」

　さすがに嬉しいと感じて、口元が綻んだ。

　愛する沙耶さんだからこそ、俺に出来る事は何でもしてやりたいと思うのだ。ただそこに居るだけで良いなんて、愛されている証拠に他ならない。

　俺はまた小さな赤ちゃんを見つめて、「そっか」と呟いた。

「鳴海くん、あんまり寝てないんでしょ？　大丈夫？」

　沙耶さんに問われて、また後ろを振り返る。

「沙耶さんは、寝れた？」

　彼女は微笑みながら、「ちょっとだけ」と頷いた。

「今日から花音(かのん)ちゃんと一緒だからね。当分は睡眠不足だけど、全然平気っ！　頑張るよ」

　そう言って沙耶さんは握り拳を作って、ニコッと笑った。その笑顔は初めて見るもので、母親としての逞しさを感じた。

　俺たちはこの小さな女の子に、鳴海(なるみ) 花音(かのん)と名付けた。

　まだ沙耶さんが妊婦だった頃、性別が女の子と分かってから、沙耶さんが毎日頭を悩ませて付けた名前だ。
　ネットでも色々と調べて、姓名判断というやつも良かったらしい。

　彼女らしく、可愛い名前を付けてくれた事に、今さらながら感謝している。

「花音ちゃん、パパですよー」

　小さな囁き声で、ピンポン玉みたいな握り拳をツンツンと突っついた。
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