シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「だから仕事に集中して大丈夫だよ。鳴海くんのその気持ちだけで充分」と。

 そう言われたからと言って、ハイそうですか、と単純に流せないのが俺だ。

 沙耶さんがトイレで席を外した時にも強く思った。

「ちょっとだけお願い」と言われて、花音ちゃんを抱っこするものの、娘は「ほぎゃあほぎゃあ」とグズリから大泣きし、テンパった。

「花音ちゃーんっ、どうしたのかな〜? ヨシヨシ、泣かないでね〜。もう少しでママ戻ってきますからね〜?」

 そうやって自分なりに精一杯あやすけれど、花音ちゃんは泣き止むどころか声を大にしてママを呼び続ける。

 程なくして沙耶さんが部屋に戻って来る。「ごめんね」と言って手を差し出されるので、そっと娘を抱き移した。

 するとさっきまでのギャン泣きは何処へやら、花音ちゃんはピタリと泣き止んだ。

「凄い……」

 まるで魔法みたいだ。

 娘はママの腕の中こそが自分の居場所だと言わんばかりに、すっぽりと収まり、沙耶さんの顔をジイっと見ていた。

「さすがママだね」と言ってまじまじと彼女を見つめると、沙耶さんは眉を下げて穏やかに微笑む。

「母親の立場ってそういうものだからね」

 立場、か……。

 何か俺にしか出来ない役割と言うか、立ち位置について真剣に考え始めた。

 
< 427 / 430 >

この作品をシェア

pagetop