シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
「あ、いえ。全くの他人です。あの男の子のお母さんは、電話で外に出ているみたいで」

「そうですか。分かりました」

 そう言って微笑むと、看護師さんは少年の元に駆け寄り腰を落とした。私も元いた席に戻る。

「ぼく? 大丈夫かな? ……あらあら、お顔が真っ青ね。直ぐに診てあげるからもう少しだけここで待っていられる?」

 少年は看護師さんの言葉に従い、小さく頷いた。

 看護師さんが首から下げた業務用の携帯で連絡を取っている間、私は少年を見て「もう少しだから頑張るんだよ」と声を掛けた。

「お姉ちゃん、……ありがとう」

 ううん、と首を横に振った時。

「水嶋さーん、水嶋 沙耶さーん」と受付の方から名前を呼ばれる。

「あ、はい……っ」

 フルネームで呼ばれるのが恥ずかしくて、慌てて立ち上がる。母から保険証を貰うのを忘れて家を出たため、自動精算機での支払いが出来なくて名前を呼ばれたのだ。

「じゃあ、お姉ちゃんもう行くから。キミも元気になるんだよ? お母さんはじきに看護師さんが呼びに行ってくれると思うから」

 少年は潤んだ瞳で、無理やり微笑んだ。白く覗いた八重歯が可愛らしいと思った。

 それから私は会計に向かった。

 **
< 82 / 430 >

この作品をシェア

pagetop