シングルマザーの私が学生と恋♡するんですか?
 あの男の子が鳴海くんだったんだ。バインダーに挟んだメモ書きを見るとは無しに見つめ、小さな吐息が漏れた。

 あんな些細な事を、ずっと覚えていてくれたんだ。

 些細な事、と考え目を伏せた。

 ーーいや、違うか。

 私にとっては凄く些細な事だった。辛そうにしている子供がいたから、誰か頼れる大人の人を探して呼んだだけ。
 でも実際に苦しんでいた鳴海くんにとっては、凄く大きな出来事だったのかもしれない。

 愛梨ちゃんの話でも分かるように、あの後すぐに病室で診て貰えたんだ。

 そう思うと、自然と今までの鳴海くんを振り返っていた。

 初めて私が名乗った時、鳴海くんは私の名前を復唱し、ハッとしていた。

 いきなり“沙耶さん”と名前で呼んだのも、私を既に“知り合い”だと認識していたからだろう。

 私に息子がいるため、結婚して姓が変わっていないかどうかも確認されたし、私が何歳の時に出産したかを尋ねて、私との年の差も確かめていた。

 暗い夜道を二人きりで歩き、コンビニに行った時もそうだ。総合病院へ続く十字路で立ち止まって、病院のある場所を確認していた。

 鳴海くんは彼なりに、私が“あの時のお姉ちゃん”だと色々な質問をして確かめていたんだ。
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