女嫌いと男性恐怖症:付き合いの手順
「もう、抱きしめていいんだよな」
この問いに、遥は笑う。
「この状況はなんですか。聞く前に抱きしめられました」
「一応、許可を」
「ふふ。変なの」
笑う遥と、頭を擦り合わせる。
「キスは?」
笑っていた遥の笑顔が消える。
調子に乗り過ぎたか。
「嫌なら、無理強いはしない」
「私、作業長に正社員にならないかって、誘われました」
突然、話がガラリと変わり、面食らいつつも、この話がキスをする上で必要なのだと理解した。
「正社員、なりたいのか」
「わかりません。ただ、今の生活はアキに甘えているな、とは思います」
「どの辺りが」
「家賃を入れているわけでも、生活費を入れているわけでもありませんし」
ああ、そこを作業長に言われたのか。
クソババアが裏で操っていると思うと、反吐が出そうだ。
人の厚意や、まして愛などは信じていない。
信じるのは、目に見えるものだけ。
異性関係に対しては、特にそうだろう。
自分も少し前までは、そうだったのだから、よくわかる。
そもそも異性を、求めてもいなかったが。