女嫌いと男性恐怖症:付き合いの手順

「もう、抱きしめていいんだよな」

 この問いに、遥は笑う。

「この状況はなんですか。聞く前に抱きしめられました」

「一応、許可を」

「ふふ。変なの」

 笑う遥と、頭を擦り合わせる。

「キスは?」

 笑っていた遥の笑顔が消える。
 調子に乗り過ぎたか。

「嫌なら、無理強いはしない」

「私、作業長に正社員にならないかって、誘われました」

 突然、話がガラリと変わり、面食らいつつも、この話がキスをする上で必要なのだと理解した。

「正社員、なりたいのか」

「わかりません。ただ、今の生活はアキに甘えているな、とは思います」

「どの辺りが」

「家賃を入れているわけでも、生活費を入れているわけでもありませんし」

 ああ、そこを作業長に言われたのか。
 クソババアが裏で操っていると思うと、反吐が出そうだ。

 人の厚意や、まして愛などは信じていない。
 信じるのは、目に見えるものだけ。

 異性関係に対しては、特にそうだろう。

 自分も少し前までは、そうだったのだから、よくわかる。
 そもそも異性を、求めてもいなかったが。
< 116 / 160 >

この作品をシェア

pagetop