女嫌いと男性恐怖症:付き合いの手順
「グラタン、作るんじゃ」
懸命に晶の体を押し退けようとする遥に、晶は苦笑を漏らす。
「ああ。俺も作るのは初めてだから、レシピをスマホで検索しよう」
テーブルに置きっぱなしになっているスマホを取りに行こうとする晶に、遥はぼそりと呟いた。
「穢らわしいって、なんですか」
「ん?」
顔を下に向け、遥は服の裾を握りしめる。
「アキは穢らわしいんですか」
掠れて今にも泣き出しそうな声が聞こえ、晶は遥のすぐ近くにしゃがんだ。
同じ目線になろうとしたが、遥は頑なに下を向いたまま。
晶は穏やかに答えた。
「なんだ。俺が穢らわしく見えるか? そう見えるかどうかは、ハルの見かた次第だろ」
遥が母親に言われた『男から女として見られる状況は穢らわしい』と、いうような言葉。
その言葉に囚われ、それを言っているのだろう。
遥は呼吸を置かず、迷いなく言った。
「アキは、綺麗です」
小さく言われた言葉に、ククッと喉を鳴らす。
「それ、女を形容する言葉な」
悪態をつきつつも、遥の答えに安堵している自分に呆れる。
質問しておいて、いつの日かのように拒否されないかと、未だ怯えているのだと。