女嫌いと男性恐怖症:付き合いの手順

「さっき、アキが直樹さんと電話をしている時に、陽菜さんから「明日、洋服でも買いに行かない?」と、お誘いを受けました」

 ああ、直樹から頼んだのか。
 あの夫婦ならやりそうだな。

 晶への直樹からの電話。
 遥への陽菜からの誘い。

 そこから、遥はなにかを感じ取ったようだ。

「それと、眠れない状況とやらは、関係ないだろ」

「だって」

 沈んだ声を出す遥は、黙ってしまった。

「ハルがどんな想像したのか知らないが、直樹からは明日、仕事の依頼を受けてほしいと言われた」

 こんな内容が聞きたいのではないというのは、晶にもわかっていた。
 なにも言わない遥に、晶は続けた。

「依頼人は、あの人」

 あの人と言った時、遥の顔に微かに顔を歪めたのが見て取れた。
 見逃してしまいそうなほど、僅かな変化。

「それで? 体を重ねれば不安がなくなるとか、一丁前な女みたいな考え方でもしたのか」

 固く固く唇を閉じている遥を見ていられなくて、手を伸ばし指先でそっと触れる。

「ったく。やっぱり俺は、キスしか能がないらしい」

 息を飲んだ遥に、腰を上げ、テーブル越しに唇を重ねた。
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