女嫌いと男性恐怖症:付き合いの手順
「お元気そうで、なによりです」
穏やかな笑みを携え、社交辞令を口にする沙織に晶も対外向けの顔をさせる。
「ええ。お陰様で。本日はどのような」
雑談する趣味はない。
早めに終わらせてしまいたかった。
「ふふっ。良かったです。大事な方と、上手く行かれているのですね」
「それは、今回の件となにか関係が?」
回りくどい言い回しは嫌いだ。
だから女は嫌なんだ。
そんな偏見が発動しそうになっていると、沙織は思いもよらない言葉を発した。
「はい。貴美子(きみこ)さんから、お話を伺いました」
貴美子は、晶の母親の名前だ。
沙織は、貴美子が開いているマナー教室に通っているところからの、知り合いだったらしい。
そもそも、貴美子が沙織の父が重役を勤める会社にマナー教師として、訪れたのをきっかけに全てが始まっている。
親公認で許婚になるのも、容易かったのかもしれない。
ただ、全て話は流れたはずだ。
だから沙織が貴美子から、晶の身辺についての話を聞く必要もないはずで。