Letter from the Starry Sky ―君がくれた世界―
Breeze







「くそっ、まだあの野郎あの女の周りうろついてんのかよ!」



未だユウが優子の送り迎えをしていると偵察に行っていた後輩から報告され、達弘は苛つきを露にしていた。



「まあまあ、その頻度も大分減ってるんだろ? あともうちょっとじゃん」



隣で仲間が気味悪く笑う。



「まあな。クスリ用意しとけよ」


「あら、何? 楽しそうなこと話してるじゃないの」


「っ……!?」



その時、達弘の背後から一人の女性が顔を覗かせた。そして達弘の手の中にあるスマートフォンが表示する画像を見て、にっこりと笑う。



「み、碧弥美(みやび)さん……」


「「「「ちわッス!」」」」
「「「「お久し振りです……!」」」」



その場に、少年達の声が響いた。碧弥美に向かって一斉に頭を下げる。



「その可愛い子猫ちゃん、どちら様?」



それが一通り終わるのを待ってから、碧弥美はゆっくりと詠うように艶やかな声を発した。



「あ、えっと知り合いッス」


「へぇー……。名前、当ててみようかしら」


「えっ?」


「お花の名前、入るでしょう?」



可愛らしいと言うより美しいと表現するべきその容姿には少しミスマッチな笑窪も、彼女にかかれば心を掴む要素にしかならない。



「えっ、と……花……? 橘優子って名前っすけど……」


「うふふっ、ほら。当たったでしょ?」


「……?」


「橘っていうのは昔から有名なお花でね。『五月(さつき)待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする』って歌が、古今和歌集にも乗ってるのよ」


「はあ……」


「橘っていう木なんだけど、とっても可愛らしい花が咲くの。白くて小さくて本当に可愛いの」


「……」


「まるで、この子みたいじゃない? 何も知らない、純粋な子。……ね?」



碧弥美はスマートフォンの中の優子の形をなぞる。



「み、やび……さん……?」



向けられたゾッとするほど美しい笑みに少年達は一人残らず鳥肌を立てた。



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