もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
恭がこの町に来た時、とてもきれいな女性と一緒だったこと。その人が亡くなったことも近所のおばさんから聞いたことがある。

この家の中には私が立ち入れない場所がある。
恭の部屋と、もう一つの部屋。
その部屋はいつも扉がしめられていて、恭自身も入ったのを見たことがない。

私はなるべく恭の迷惑にならないように、家の中の状態を変えないようにしている。
触れなくていいものには極力触れない。場所を変えないように気を付けている。

使う食器も、ペアの物は使わず、たくさんある来客用の皿を使うようにしていた。

2年前の私は食べることが苦痛でしかなかった。
栄養失調になっていた私は食べることが一番の治療で、その頃は毎日恭がおかゆを作ってくれていた。はじめのころは一食で一口。
でも、毎日毎日恭が作ってくれるおかゆをすべて食べきれるようになることには、私の体は治っていた。

体が治ってからは私は仕事を探そうとした。
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