もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
「ここは鈴が最後に俺と一緒に暮らしてたマンションなんだ。ここよりも前に住んでいたマンションがあって。でも、グランドピアノを置くためにここに引っ越したんだ。俺の仕事もうまくいって借りられるようになったし。」
そう言って嶺がマンションを見上げた。

見上げていると首が痛くなるくらいの高層マンション。
「ここよりも前に暮らしてたアパートはピアノがおけなくてさ。いつもスタジオに行ってピアノを弾いてたんだ。」
「・・・」
嶺が懐かしそうに話す。
「仕事がうまくいってここに引っ越せたのも、鈴がいてくれたからだって思ってる。」
「・・・」
自分でもわからない時期のことを話す嶺。
どこか他人事に感じてしまう・・・。

「ごめん」
私が戸惑っていることに気が付いた嶺は私の方を見てバツが悪そうにうつむいた。

「うんん。今日は教えてほしいから。私のことを。私自身のことを。」
私の言葉に嶺は少し不安をみせてから「行こうか」と車を地下の駐車場へ向けて動かした。
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