もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
「ここにはどのくらい暮らしていたんですか?」
「鈴は1年半くらいかな。鈴がいなくなってから引っ越すことも考えてんだけど、いつか鈴が戻った時に、居場所が分かるように、ここに住んでたんだ。」
遠くを見る嶺。

こんなに無機質な場所で。
広くて孤独を感じる場所で。
二人で一緒に過ごした思い出が色濃く残る場所で、嶺はひとりずっと私を待っていてくれたんだ。

「ここに引っ越すときに、実は鈴は反対したんだよ。」
「え?」
「鈴はかなり苦労してたから、贅沢することに対してかなり怖がる癖があったんだ。自分で働いたお金で高校に通っていたくらいだし。」
「・・・」
何となく今の私ならその時の自分の気持ちがわかる気がした。
「広すぎる部屋も不安だって。落ち着かないって言ってた。」
「・・・」
「でも、俺は自分への喝でもあったんだよ。」
「喝?」
私が嶺の方を見ると嶺は少し微笑みながら私を見た。
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