もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
「おはいりください」
看護師に呼ばれて私は嶺と一緒に診察室へ入った。
「水瀬鈴さんですね。」
「はい」
「以前の主治医の先生から具体的な紹介状と、先日連絡も直接いただいています。」
その言葉に私は横に座る嶺を見た。

知らなかった話。

「長谷部さんから鈴が家を出たあの日に、俺が薬と一緒に預かってたんだ。薬を服薬するときの注意事項と新しい病院を早く見つけて受診してその時に渡す紹介状と簡単な今までの経過をまとめた書類。それから、病院が決まったら連絡が欲しいって。」
恭の顔が浮かぶ・・・。

私が家から出た後のことも考えてくれていたんだ・・・。

「水瀬さんはご自分の状況をどこまで医師から聞いていましたか?」
「・・・記憶喪失で部分的な記憶を失っていると聞いています。生活機能維持のために必要な読み書きや言葉を話したり、生活動作に必要な知識はありますが、記憶として残っているのは2年ほど前に栄養失調と脱水症状で入院した日からしかありません。」
新しい医師は年配の白髪の男性医師だった。穏やかな口調で私が話をすることに相槌をうちながら、カルテにメモを取っている。
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