もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
「安定剤が処方された要因はご存じですか?」
「・・・」
これまた言いにくい。
白髪の医師が言葉に詰まった私の方を見て穏やかに顔にしわを寄せて微笑んだ。
「初回からいろいろきいてすみません。もしも答えられなければ後日でも大丈夫です。」
「・・・2年前・・」
私が話始めると医師は微笑んだまま話に耳を傾けてくれた。
「自分という存在が分からなくて、一度自殺未遂をしました。」
少し震える声の私に、嶺がピクリと体に力を込めて反応したのが視界に入った。
この話は恭から聞いていなかったのだとその反応でわかる。
「一度だけですが・・・そのあと過換気症候群と診断を受けています」
「そうですか。よく話してくれましたね」

子供のころの記憶なんてない私。
でも、この医師になぜかものすごく安心感をもてる。
穏やかな雰囲気や口調が、誰かに似ているのかもしれないと思った。

「記憶は戻るか、戻らないかは私にもわかりません。」
「・・はい」
「でも、カウンセリングをしながら、これからの未来を豊かにするために治療はできます。」
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