もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
忘れるなというのは、恭から贈られた私への言葉だ。
もしかしたら、自分とのことを忘れないでほしいという恭の願いも込められているのかもしれない。
「恭」
「ん?」
「ありがとうね」
「おう。じゃあな。」
恭は私の頭にぽんと手を置いてから、微笑んだ。
そして、背中を向けて玄関を出て行った。

その姿を忘れないともう一度自分自身に願掛けしながら、私は玄関の扉を閉めた。


いつの間にか後ろに立っていた嶺が、私が振り向くと優しく微笑んでいた。

その微笑みに微笑み返す。

「ピアノ、弾くか?」
「・・・うん」
嶺なりの、今の精一杯のフォローだと知っている。
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