もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
「・・・」
「鈴?」
「前にも、こうやって・・・」
「あぁ。」
ふと思い出す場面が最近は増えている。

まだ母親の罵倒する声は聞こえたままだ。でも、幸せな思い出やあたたかな思い出を思い出すたびに、私は母からの言葉がすべてではないと思えた。

「ピアノを弾くたびにそう言ってた。それから手をつなぐたびに言ってた。」
「・・・そう・・・」
「あぁ。」
「・・・だめ・・・それ以上は思い出せない。」
記憶の扉が少し開いたときにもっと思いだしたいと、必死にその扉をこじ開けようと試みる。
でもいつもそれ以上は記憶を引き出せない。

「大丈夫。」
嶺が私と合わせたままの手をそっと握ってくれる。
「大丈夫」
「・・・うん」
私の手がすっぽりと嶺の手の中に包まれる。
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