もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
心のどこかで思い込んでいた。
自分の過去の世界に少しでも触れたら、閉ざされている記憶の扉が一気に開くと。

でも、何も思いだすことができない。

「鈴、少し休憩しようか。」
嶺は私の顔を覗き込むようにしながらそう言って、近くにあったベンチに座らせてくれた。
この場所は私が幼いころよく遊んだという公園。
子供のころ、私がピアノ漬けになる前に良くこの公園のブランコに乗っていたらしい。
「何か飲み物買ってくるな。待ってて。」
そう言って近くの自販機まで走っていく嶺。

私は一人残された公園のベンチからブランコを見つめた。
嶺の部屋で見たことのある幼いころの私の写真を思い出す。
そしてその自分があのブランコに乗ってる姿を想像してみる。

・・・だめだ・・・思い出せない。

実際にブランコに座ったら何か思いだせるかもしれない。
私はベンチから立ち上がりブランコへ向かった。
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