もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
言葉が少ない恭。その日の出来事なんて私たちは報告し合うような関係じゃない。
いちいち自分の考えを相手に伝えるほど、関係が深いわけでもない。

でも、お互いに言葉がなくても相手が何を思っていて、どんな気持ちなのかはお互いの呼吸や表情、歩き方からも感じ取れるようになってきた。

私はいつものように、恭の後に手を洗ってから台所へ向かった。

珍しく、恭はお風呂の準備よりも先に手を洗ってから茶の間にある仏壇の前に座り、手をあわせた。

いつもこうして手をあわせ始めると恭は長い。

今日も。手をあわせ目を閉じたまま長い時間恭はそこに座っていた。
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