もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
「鈴が生まれた時の感動を。この子を自分が守るんだっていう大きな責任を・・・思い出したんだ。遅すぎるけど、思いだしたんだ・・・。」
父の瞳が少し揺れている。
「大切な時期に、ちゃんと向き合わなかったこと・・・鈴から逃げたこと・・・後悔してる・・・後悔してるんだ。」
まっすぐに潤む瞳で私を見る父の姿に、涙があふれて止まらない。
ちゃんと私も父を見ようと思っているのに、あふれる涙で視界がゆがむ。
何度も瞬きをして、涙を流して、ちゃんと見つめようとするのに、つぎからつぎへと涙があふれた。

「すずが生まれて抱いたときに、鈴のことが浮かんで、あの子にすずって名前を付けた。」
「・・・」
「そんなんじゃ、罪滅ぼしにならないってわかってる。大切なときに鈴の人生から俺は逃げた。背中を向けた。守ろうと誓ったのにその誓いを破って投げ出したんだ。・・・ちゃんと向き合うこともせず。幼い鈴に全部擦り付けるように、いろんなこと押し付けたまま、責めたまま・・・。」
記憶は戻らない。
まだ嶺から聞いた話の世界でしか、過去の私は存在していない。
なのに、心の奥からあふれる涙はきっと、ずっとずっと自分を責めて、父に背中を向けられて寂しかった過去の私自身の涙だとわかる。今の私の中の、奥底に眠る私の存在を感じながら、あふれる涙の温かさに心溶かされるようだった。
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