もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
「今度ある音楽祭に、神永さんを招待したいという先方からの連絡が入ったんです。どうしますか?」
「事務所的には?」
仕事の打ち合わせの時、若菜が言いにくそうに話を始めた。
「事務所的には参加の方向にもっていきたいと・・・」
「上司命令な」
「そうです」
言いにくそうな若菜。嶺は若菜が言葉を選びながら話をしているのを聞いて、かわいそうな気になってしまった。
若菜は嶺がメディアに露出したくないということを知っている。だからこそ、話しにくいのだろう。でも会社では新人の若菜はきっと上司からどうにかして嶺を音楽祭に参加させる方向にもっていくように命令されているはずだ。

「わかった。参加する」
話の背景を察した嶺がそう言うと若菜は驚きに目を丸めながら嶺を見た。

本当は参加したくない。
でも断れば若菜が会社で上司に叱られるのだろうと思うと、了承せずにはいられなかった。
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