もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
「両親からのプレッシャーと毎日ろくに睡眠もとれないまま働いて、彼女の心はどんどんと壊れていきました。輪をかけるように、学校にほとんど登校しない彼女は学校でもいじめられるようになって、彼女の居場所はどんどんと無くなっていきました。」
「まだ小学生なのに、大人の社会に無理やり入れられたんですね」
「・・・彼女はどんどんと壊れていきました。笑わなくなって、ピアノもそれまではのびのびと弾けていたのに、彼女の魅力がどんどんと消えていって楽譜をそのまま弾くような無機質なロボット状態でした。」
何も思いだせないまま、私は膝を抱えてまるで他人事のような感覚で話を聞く。

「笑えない彼女をメディアも需要しなくなった。」
「・・・」
「仕事がなくなって、収入も減った彼女の両親は彼女にかなりつらく当たり始めた。」
「・・・」
「なぜ笑えない。なぜ前みたいにピアノが弾けないんだと彼女は両親からも世間からも非難された。」
「辛いですね」
「見ていられなかったですよ。ひにひに壊れていく彼女を何もできずに見ているだけの毎日は。」
嶺の声には切なさがあふれている。
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