もう一度君と ~記憶喪失からはじまる2度目の恋~
「そこで再会してから、彼女と話をするようになりました。そもそも俺は自分でピアノを弾くよりも、曲を作るほうが好きだったんです。」
嶺がピアノを弾いている姿を見ることができなかったことを少し私は後悔した。
「付き合うようになって、俺が作った曲を彼女に弾いてもらうようになりました。」
「彼女はまだピアノを?」
「ブランクなんて感じないほど彼女のピアノの腕はかなりすごかった。多分、楽器店でもこっそりピアノを弾いていたんだと思います。彼女は両親が離婚してすぐにピアノ教室もやめていたので、7~8年はピアノを本格的には弾いていない生活をしていた。でも、俺の作った曲を簡単に弾くんです。俺の楽譜に載せきれなかった部分まで弾いて表現してくれました。」
私の覚えていない世界で、嶺と私の心が見えないもので繋がっていたことを知る話の内容。

その気持ちを思いだそうとしても、全く思いだすことができない。
むしろ、別人の話のように他人事にすら思えてならない。

「彼女と付き合うようになってすぐに俺たちは一緒に暮らし始めました。」
「・・・」
「俺は大学生のころから、少しずつピアノを弾いたり曲を作る仕事をしていて、二人が暮らしていくには十分な収入があった。彼女も高校を卒業してから働いていて、自立していました。彼女の生い立ちを知っているからこそ、彼女の生きる環境を変えたかったんです。」
< 69 / 432 >

この作品をシェア

pagetop