奴隷市場
第二話 入札
全部の情報を取得したときには、ちらほら入札が行われたルームが目立ち始めた。
入札が行われると、入札数が表示されるのだ。入札数が1だと入札は流れる事になっていると説明された。不正防止なのだろう。
/// ルーム18
性別:女性
年齢:18
出身:駿府
希望:殺してくれる人
特記事項:
なし。
///
居た!
赤い印が付いている。それでいて、特記事項がない。特記事項に書けないほどの事情を持っている。
僕の望みにこれほど近い奴隷は居ない。それで死にたがっている。
ルーム18には、すでに入札が4件されている。
ルーム18は空いている。
当然だよな。赤い印が付いている部屋にわざわざ入る奴は居ない。
部屋にはいる為には、名札をかざさなければならない。部屋の入退出を記憶しているのだろう。
別に”怖い人たち”がそれで追ってきてくれても構わない。あの手の人たちは面子を気にする。面子を潰されて黙っているわけが無いのだ。
末端の三下なんか必要ではない。必要なのはもっと違った力だ。僕にない力を持っている奴だ・・・。でも、さっき話してきたような奴らではないのは理解している。
部屋に入ると、そこは10畳くらいの広さがある場所になっている。
少女と言って間違いはない女性が1人首輪をして薄着で座っている。
「貴方は?」
「好奇心で部屋に入った愚か者ですよ?」
「愚か者?」
「えぇ、愚か者です。君が書いた”希望”に惹かれました」
「殺してくれるの?」
「僕の用事が済んで、まだ死にたかったら殺してあげますよ」
「私を・・・。私を買ってください。あの人達は私を殺してくれません」
「なぜ?」
「私は、奴隷で、物で、贄で、餌だから・・・。私は、生きていないとダメ・・・。殺して、死んでしまうと、価値がなくなる」
「そう?でも、僕は君を買うメリットがないよね?」
「メリット?」
「入札も安い金額ではない。君は、僕に何を提供できるの?」
「この身体以外は・・・違う。私を殺してくれるまで、絶対の忠誠と、ご奉仕を」
「閨を要求するかもしれないよ?」
「かまいません。したことはありませんが知識はあります」
「僕の代わりに死ねというかも知れないよ?」
「それこそ本望です」
「わかった。君を、奴らから買おう。何か、奴らの情報は・・・。いや、今は辞めておこう」
「はい。入札していただけるのですか?」
「そのつもりだ?なにかあるのか?」
「いえ、奴らと先ほど呼ばれた人たちかわかりませんが、貴方の前に入ってきた人たちが言っていたのが、私の入札額を少し高めにすると言っていました」
「そうか、わかった。でも、落札相手は君が選ぶのだろう?」
「はい。そう説明されていますが・・・」
「金額は、なにか言っていたか?」
「私には払えない金額だとしか・・・。そうです。3本とか言っていました」
通常、本で示すときには、100万が相場だろう。1、000万だと冊になって、1億だと座布団に例えられて枚と数える。
300万が入札の金額と思っていいだろう。
「わかった、それなら5,000万が僕の入札額だ。僕は、君を奴らから5,000万で買う」
「え?」
「5,000万円だ」
「よいのですか?」
「問題ない」
「わかりました。でも・・・」
「全部ひっくるめて納得したら、僕を選べばいい」
「わかった。貴方の事は?」
「入札表を見れば解るだろう?」
「・・・。はい」
入札を行って、部屋を出る。ルーム18の入札数が増えているのだが問題はなさそうだ。
他の人たちが気にするような事では無いだろうし、他の赤い印の部屋も入札数が増えている。
聞こえてくる会話から、気に入る奴隷が居なかったから、赤い印の奴隷に安値で入札だけしたという事だ。記念入札をしたと話しているのが聞こえた。
そうだよな。そうしたら、落札はされないが入札した事実は残るし、お金も返ってくる。
「おい!」
「は?」
「貴様。その部屋に入札したのか?」
「記念入札です」
「そうか、中でなにか話したのか?」
「いえ、別に?」
「それならいい」
仮面をしているのでわからないが、先程の男たちの中に居たのだろう。
同じ様な服装をしている。
他のルームも好奇心から入って見る事にした。
ルーム21にも赤い印がしてあった。
情報では女性となっていて、特記事項で性奴隷になる事も承諾している。
僕が入ろうとしたときに、部屋から先程忠告をしてくれた人物と同じ服装の男が部屋から出てきた。
部屋から出てきた男は、明らかになにかをしてきた事を物語っている。
要するにそういうことなのだろう。
「おい。お前、解っているだろうな」
「はい?」
「この部屋の事だ」
「はい。解っています。でも、部屋に入るのもダメだとは聞いていません」
「ハハハ。そうだな。今は俺たちの相手をして疲れきっていると思うから、あまり苛めるなよ。お兄ちゃんは若いからな我慢出来なくなってもやるなよ」
「大丈夫ですよ」
「ハハハ。ネットの監視もあるし、そんな度胸もなさそうだな」
それだけ言って、男たちは立ち去ってしまった。きっと次の奴隷の所に行ったのだろう。
あの男たちへのご褒美がこの手の事なのだろう。
表向きは、奴隷の品定めの時に必要以上の接触やそれに類する行為は法律で禁じられている。落札されるまでは、奴隷市場所有の商品であり人権が保証されている事になっている。それを平然と破れるだけの力がある組織なのだろう。
僕は、今自分が想像したことが正しいかどうかを見るために、中に入ることにした。
何をやっていたのかすぐに解るような痕跡は残されていない。
奴隷の顔には事情を察している状況が見て取れる。
ただ、確認をしたかっただけだったので、何もしないで立ち去ることにした。
気分も悪くなったのだ、奴らには奴らの使いみちがあり、それをうまく使えば、僕のメリットに繋がるかも知れない。
「ねぇお願い。辛いの、助けて」
「ん?」
「ねぇ私の事を見て」
「ん?それは、僕に言っているの?」
「そう、貴方はあの男達とは違うでしょ」
「同じだよ、奴隷を買いに来ているのだからね」
「違うよ、そういう事じゃなくて、奴隷法に従った人でしょ」
あの者たちが奴隷法に従っていないと言っているのだが、実際従っていないのだろう。
「そうだけど、でも本質は同じだよ。自分の欲求を満たす事を考えている」
「でもいいの?毎日、毎回違う人の相手をさせられる事はないでしょ」
「君が僕の求める奴隷ではない。僕には、君を助ける事はできない」
「そうだよね。バカだな・・・私。1人に必要とされたいなんて思ったのが・・・、騙された私が馬鹿だった」
「奴隷市場に申し出れば、落札が決まる前なら流されるでしょ?」
「表ではね。それこそ、そんなことをしたら、私だけじゃなくて・・・」
法律の庇護を受けない事を宣言するに等しい行為だな、あの男達に追われて一生それこそ奴隷のような生活を余儀なくされる。
「ゴメンね。僕には、何も出来ない」
「・・・。話を聞いてくれるだけで」
僕は、その言葉を背中で聞いた、怖くなったこともあるが、これ以上この場にいると入札してしまいそうになる自分が怖かった。
「待って、お願いがあるの」
その声を聞いて、僕は、振り向いてしまった。
「抱きしめさせて?」
「僕でいいの?」
「誰でもいいの・・・。私が最後に、私の意思で抱きしめる、最後の人になってほしい」
「解った」
女性に抱きしめられた。弱々しい力で僕を抱きしめて、耳元で”ありがとう”とだけ言った事は忘れない。ありがとうの言葉の後に、彼女が本当の名前だと名乗った名前は忘れないと誓った。
そして・・・。なぜかわからないが、怒りに似た感情が湧き出してきた。
僕は一言だけ彼女に告げた
「綺麗だよ」
彼女は、どんな気持ちでその言葉を聞いたのかわからない。
わからないけど、彼女はにこやかに笑ってから表情を消した。