『封魔の城塞アルデガン』
第8章:見張り台
アラードと同期の戦士ガモフは、かがり火の燃える城壁の上で見張りに就いていた。背後には隊長のボルドフが立っていた。
ずんぐりした体格のガモフは敏捷さよりは力で戦う資質の持ち主だった。もちろんまだ若く経験不足であるため、ボルドフから見れば未熟さは覆いがたいものだったが、オークやコボルト相手なら今のアラードよりむしろ安定した戦いができた。訓練所でもアラードと張り合ってきたガモフはアラードより先に洞門番に登用され、倒した亜人の数でもアラードに差をつけていた。
しかし洞門が急襲を受けたとの知らせに宿舎から駈けつけたガモフたちを出迎えたものは、亜人とは次元の違う存在だった。
獅子ほどもある醜悪な魔獣の死体。戦いに臨んだ仲間たちの話も凄まじいものだった。それは自分たちの前の班の若者を四人も瞬時に噛み殺し引き裂いたというのだ。
ボルドフがラーダ寺院から戻ったとき、ガモフたちは明らかに動揺していた。事態の悪化を感じているのを隠せずにいた。
ボルドフはガモフたちを集め、宝玉の結界に異変が起こり魔物の行動への制約が弱まったために強力な魔獣が洞門に現れたことを説明した上で、当分のあいだ夜は城壁の下へは降りずに城壁の上から洞門を見張るよう指示した。そして、今夜は自分も見張りに立つから、一人ずつ交代で見張りに立ち他の者は階下で仮眠をとるよう命じた。
ガモフが見張りに立ったのは、もう少しで空が白みはじめる頃だった。
「自分もあんな化け物を倒せるようになれるでしょうか」
ガモフはボルドフに声をかけた。それは仲間たちも一様に隊長に発した問いだった。
「生き残り、戦い続ければ必ず」
ボルドフもまた、同じ答えをガモフにも返した。
そのときラーダ寺院の見習い僧が城壁の上に現れ、ボルドフを手招いた。そして近づいたボルドフに小声でなにかを告げた。
ガモフにはその声は聞こえなかったが、ボルドフが顔色を変えたのがゆらめくかがり火の光でもはっきりと見て取れた。
ボルドフは足早にガモフのところへ戻った。
「ラーダ寺院からの招集だ。俺はすぐ行かねばならん。他の者を起こすから見張りをこのまま続けてくれ」
そういうと、ボルドフは見習い僧と共に階下へ姿を消した。
ついに空が白み始めた。だがそのせいで、洞門の影はかえって深まったようにガモフには感じられた。
もしも洞門に異変が起きたら。若者はひたすら洞門を凝視していた。見張りのためというより恐怖にかられ、己の首に背後からのびる、やつれた、けれど鋭い爪を生やした手に、気づくこともできぬまま。
ずんぐりした体格のガモフは敏捷さよりは力で戦う資質の持ち主だった。もちろんまだ若く経験不足であるため、ボルドフから見れば未熟さは覆いがたいものだったが、オークやコボルト相手なら今のアラードよりむしろ安定した戦いができた。訓練所でもアラードと張り合ってきたガモフはアラードより先に洞門番に登用され、倒した亜人の数でもアラードに差をつけていた。
しかし洞門が急襲を受けたとの知らせに宿舎から駈けつけたガモフたちを出迎えたものは、亜人とは次元の違う存在だった。
獅子ほどもある醜悪な魔獣の死体。戦いに臨んだ仲間たちの話も凄まじいものだった。それは自分たちの前の班の若者を四人も瞬時に噛み殺し引き裂いたというのだ。
ボルドフがラーダ寺院から戻ったとき、ガモフたちは明らかに動揺していた。事態の悪化を感じているのを隠せずにいた。
ボルドフはガモフたちを集め、宝玉の結界に異変が起こり魔物の行動への制約が弱まったために強力な魔獣が洞門に現れたことを説明した上で、当分のあいだ夜は城壁の下へは降りずに城壁の上から洞門を見張るよう指示した。そして、今夜は自分も見張りに立つから、一人ずつ交代で見張りに立ち他の者は階下で仮眠をとるよう命じた。
ガモフが見張りに立ったのは、もう少しで空が白みはじめる頃だった。
「自分もあんな化け物を倒せるようになれるでしょうか」
ガモフはボルドフに声をかけた。それは仲間たちも一様に隊長に発した問いだった。
「生き残り、戦い続ければ必ず」
ボルドフもまた、同じ答えをガモフにも返した。
そのときラーダ寺院の見習い僧が城壁の上に現れ、ボルドフを手招いた。そして近づいたボルドフに小声でなにかを告げた。
ガモフにはその声は聞こえなかったが、ボルドフが顔色を変えたのがゆらめくかがり火の光でもはっきりと見て取れた。
ボルドフは足早にガモフのところへ戻った。
「ラーダ寺院からの招集だ。俺はすぐ行かねばならん。他の者を起こすから見張りをこのまま続けてくれ」
そういうと、ボルドフは見習い僧と共に階下へ姿を消した。
ついに空が白み始めた。だがそのせいで、洞門の影はかえって深まったようにガモフには感じられた。
もしも洞門に異変が起きたら。若者はひたすら洞門を凝視していた。見張りのためというより恐怖にかられ、己の首に背後からのびる、やつれた、けれど鋭い爪を生やした手に、気づくこともできぬまま。