死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
コンコン。
突然、病室の窓を叩いたような音が聞こえた。何かと思って窓を見ると、窓の外に、青年がいた。
雲一つない快晴の空のような青い髪をしている。まつ毛が長くて、瞳が茶色い。鼻筋がすっと通っていて、青い髪と吊り上がった瞳が、ガラの悪さを醸している。身長はこいつの方が俺より少し高いくらいだ。差は五センチもない。
――ん?
奴が着ていた白シャツと学ランのズボンの所々に血がついていた。
――こいつ、自殺する前に見かけた男だ。
俺、こいつとあの茶髪の男に助けられたんだ!
涙が零れた。
やっと死ねると思ったのに……。
神様はひどい。
いじめてとも、姉を殺してとも、親を殺してとも頼んだつもりはない。それなのにおれをいじめて、みんな殺した。俺だけ生かした。そんなの頼んでないのに。
俺は姉が家にいるだけでよかったんだ。
毎日姉が帰ってくるのを待てるだけでよかった。それだけで幸せだった。
俺がお帰りと言ったら、ただいまといって笑ってくれる姉と一緒にいるだけでよかったのに。
誰でもいい。
殺人鬼でも、強盗犯でも、いじめっこでも、その親でもいい。
誰でもいいから、頼むから俺を殺してくれ……。
俺は祈るような想いで頭を抱えた。
足の痛みが折れたせいではなくナイフとかで刺された痛みだったらよかったのに。
「開けろ」
青髪の男がいう。
うるさいな。
こっちは生きてる事実に絶望してて、お前に構ってるどころじゃないんだよ。
青髪の男が窓を叩いたが、無視した。
十回くらい連続で窓を叩かれる。
「うるせえ!!」
あまりのしつこさにイライラして、思わず窓を開けて叫んだ。
窓はベットの前にあるから、足が折れてても動かせる。
「あ、やっと開けた」
「なんでドアじゃなくて、窓から入ろうとすんだよ」
「いやごめんごめん、他人だから面会断られてさ。それで思わず。一階だったから、窓からでも入れるかと思って」
俺が足を骨折してて下半身をろくに動かせないから、病室は一階にある。
一階なら確かに、窓から入ろうとしたら、できなくはない。でもいくらなんでも窓から入れると言って、面会を断られたのに入ろうとする奴がいるか? いないだろ!!
「なんの騒ぎですか?」
看護師が病室に入ってくる。
「あ、やべ」
青白い顔をしてあづは言う。
「亜月くん? 面会がだめだったからって窓から侵入しようとしたの? 帰って! そんなの絶対ダメだから」
どうやらこいつは亜月というらしい。
「えー、別にいいじゃん」
「何も良くないです!」
「はいはい。帰ります。よかった。足は折れてるみたいだけど、叫べるくらいには元気みたいで。じゃあな」
亜月の言葉を聞いて、思わず目を見開く。
俺が元気だって? そんなの勘違いも甚だしい。
「おい」
病院を後にしようとする亜月を呼び止める。
「え?」
「俺のどこをどう見たら元気だなんて言えるんだよ。……なんで、なんで生かしたんだよ!! 俺は死にたいのに……っ」
掠れた弱々しい声が漏れた。
八つ当たりにも程がある。
そうわかっていても、こいつのせいで死ねなかったのが我慢ならなくて、思わず言ってしまった。