死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

「奈々? すっごい音したけど、大丈夫か?」
 あづが階段から降りて来る音が聞こえてきた。
「すみません爽月さん、一回外出てくれますか? あづに爽月さんと暮らしてること話してないので」
「別にいいけど、俺と奈々絵が一緒に暮らしてることに、何の問題があんだ?」
「……あいつは、爽月さんが俺の首をしめかけたのを知っているので、たぶん俺と爽月さんが一緒に暮らしてるのを知ったら、びっくりすると思うんです」
「……いい方が回りくどいな。要は俺がお前が自殺未遂をした一番の原因を作った奴だから、そんな奴と一緒に暮らしてるなんて知られたくないってことだろ?」
「……はい、そうです。すみません」
 俺は爽月さんに頭を下げた。
「……別にいい。俺が首絞めたのが悪いしな。それじゃ、外出てるわ。家の中に戻っても問題なくなったら、連絡して」
 爽月さんは俺の頭を撫でようとしたが、頭に触れる寸前で、手を下ろした。
 それはまるで、〝自分には撫でる資格がない〟というかのように。
「さ、爽月さん」
 玄関にいって靴を履こうとした爽月さんに俺は声をかけた。
 爽月さんは俺の声を無視して、靴を履いて家を出ていった。  
 どうしよう。……機嫌を損ねてしまったかもしれない。
 後でちゃんと、誠心誠意謝らないと。
「奈々、どうした? えっ! 何があったんだよ!」
 階段から降りてきたあづが水浸しの床を見て声を上げた。
「……立ちくらみがして、零しただけ。片付け手伝ってくれるか?」
 病気が原因なのは言わなかった。
「ああ、手伝う!」
「じゃあ、洗面所の洗濯機の上にタオルと薬があるからそれと、台所にあるコップ、どれでもいいから一つ持ってきて。コップには水入れてな」
「わかった! 直ぐ持ってくる」
 あづは走って、洗面所に行った。
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