死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

「奈々、持ってきたぞ」
 あづがタオルを腕にかけた状態で戻ってきて、俺に水の入ったコップと薬を差し出してくる。
「……悪い」
 俺はコップを右手で受け取って床の濡れてないとこに置いてから、薬をまた右手で受け取って、口の中に入れた。
 右手でコップを摑んで薬を水と一緒に飲み込んでいると、あづから視線を感じた。
「奈々、左手使わないのか?」
 あづが首を傾げて聞いてくる。
「き、急に何言ってんだ?」
 冷や汗をかいた。
 マズい。麻痺がバレたのか?
「だってさっきわざわざコップ床に置いてたから、何で両手使わないのかと思って」
「……たまたまだよ」
「ふーん?」
 そういうと、あづは俺から目を逸らして、手に持っていたタオルで床を拭き始めた。
「……俺、割れたコップ片付けないとだし、新聞紙取ってくる」
 俺は立ち上がるとあづの横を通り過ぎて玄関に行き、外のポストにある新聞紙を取りに行った。
「はぁ……」
 危ない。
 本当に焦った。
 麻痺がバレてなくて、本当に良かった。
 俺はポストから新聞紙をとると、辺りを見回した。
 爽月さんがいない。
 ……どこかで時間つぶしでもしているのだろうか。
 まぁ、連絡したら戻ってくるか。
「奈々ー、新聞届いてた?」
 あづが家のドアを開けて、俺に声をかけて来る。
「ああ、届いてた。物置からほうきとちりとりとってくるから、ちょっと待ってて」
「ん」
「よし! 片付いたな!」
 十分くらいで床が片付くと、あづは笑って言った。
「……ああ。手伝ってくれてありがとう。あづがいてよかった」
「べ、別に。礼なんて言わなくていい」
 俺は笑って、頬を赤くしているあづの頭を撫でた。
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