死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「戻ったぞ、奈々絵」
急に玄関のドアが開いたと思ったら、爽月さんがそんなことを言ってダイニングに入ってきた。
どうやら本当にどこかで時間を潰していただけみたいだ。……よかった。爽月さんを傷つけてしまったかと思ったから。
《奈々、大変だ!あづと連絡が取れなくなった!》
潤がLINE通話でそんなことを言ってきたのは、その日の十五時頃だった。
その時、俺は高校の編入試験を受けるために、ダイニングで爽月さんから勉強を教わっていた。どうやら病気のことがあるからただの編入ではないとはいえ、授業についていけるかを確かめるためにも試験は受けなきゃいけないらしい。
「は? 連絡が取れなくなったって、一体何があったんだ?」
《分かんねぇよ!とにかく今朝の八時くらいからずっとLINEも既読になんないし、通話にも出ないんだよ!》
八時?
それって、あづが俺とわかれてから三十分くらいの時間じゃないか?
――まさか、スマフォ奪われて監禁でもされたのか?
家に帰って、早々に。
いや、流石に穂稀先生はそこまでする人じゃ……ないって、言いきれるのか?
仮にだが、穂稀先生の仕事が休みで、何かいざこざがあってあづに虐待をしてスマホを没収したんだとしたら、かなりマズくないか?
冷や汗が頬を伝う。早く見つけないと手遅れになるんじゃ……。
「奈々絵、落ち着け。とりあえずあづが家にいなかったかどうか確認しろ」
爽月さんが俺の肩を触って言ってくる。触られた肩が、小刻みに震えていた。
「潤、あづの家にはいったのか?」
俺は爽月さんの言葉に頷いてから、潤に尋ねた。
《……いや。俺、あいつの家知らないんだよ。あいつ家で遊ぶってなったら、絶対自分の家はダメって言う奴だから》
……家に入れたら虐待がバレるからか。