死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

「おいあづ、何してんだよ!」

 潤があづの目の前にいって、声をかけた。

 あづは潤を見たが、すぐにふいっと目を逸らした。

 どういうことだ?
 俺と恵美は慌てて潤の隣に行った。

「空我!!」「「あづ!」」

 潤が空我っていう声と、俺と恵美の声が被った。

「ちっ」

 舌打ちされた。

 ……え、なんでだ?

「怜央、酒買い行こうぜ」

 あづが缶酎ハイを飲み干して、怜央に声をかける。

「へ? あづ、友達じゃねぇの?」

「……だとしても、今は話したくない。失せろ」

「えっ。あづ、何でだよ」

 お前、昨日俺の家泊まったじゃん。意味わかんねぇよ。

「触んなっ!」

 あづの肩に手をやろうとしたら、大声で叫ばれた。

 ――この反応はおかしい。絶対何かある。
 俺はあづのパーカーのフードを引っ張った。
 あづのフードが取れて、隠れていた顔が露わになる。
 あづの唇がきれていて、右の耳たぶが赤く腫れ上がっていた。

 ――もしかして。

 俺はあづの左手を無理矢理パーカーのポケットから出した。

 あづの手首に包帯が巻かれていて、そこから血が滲んでいた。さっき見えたのは、やっぱ包帯だったのか。

 あづは何も言わず、缶酎ハイを持っている手で顔を隠した。

「あづ、ケガ隠すならもっとちゃんとやれ」

「いや文句言うの絶対そこじゃないだろ。 それに、ちゃんとやられたら困るだろ。見破れなくて」

 潤があまりにもズレたことを言ったので、思わずつっこんでしまった。

「あ、それもそうだな」

「ハハッ。……お前ら怪我見たのにいつも通りすぎだろ。……怜央、ごめん。俺今日もう帰るわ」

「りょーかい。また明日な」

 怜央は文句も言わなかった。

「……うん、また明日」

「明日も酒飲むのかよ」

 潤が咎めるみたいにいう。

「……飲まねぇよ。怜央は学校も一緒なの、潤は知ってるだろ?」

「ああ。それが一番嫌なことなんだけどな!」

 潤が大きな声で言う。露骨にも程がある。

「うわっ、俺嫌われてるなー」

「そう思うなら態度を改めろ。行くぞ、あづ」

 缶酎ハイを持っている方のあづの手首を潤が掴む。

「ごめん、みんな」

 あづが怜央たちを見ながら言った。

「ああ、大丈夫。じゃあなあづ」

 怜央は気にすんなとでも言うかのように片手を上げた。

「「じゃあな、あづ、奈々絵ちゃん」」

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