死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
病院に着くと、俺とあづは直ぐに風呂場に案内された。
風呂から出て、看護師に誘導されて会議室のような場所に行くと、そこにはさっき会った男の警察と、穂稀先生と、草加と草加の母親らしき人がいた。
「話を聞いてもいいかな」
男の警察がいう。恐らく俺達が話せる状況になるまでここで待機していたのだろう。
「潤と怜央と、恵美は」
警察を見ながら、あづは首をかしげる。
「彼らなら、私の部下が別室で話を聞いてるよ」
「空我! どうして喧嘩なんてしたの! 心配したじゃない!」
穂稀先生があづに近づいて、あづの身体を抱きしめようとして、腕を伸ばす。あづは穂稀先生の腕を勢いよく振り解いた。
警察があづの行動に驚いて、目を見開く。
虐待のことはまだ気づいてないだろうけど、何か勘繰られただろうな。
「二人とも、そこの席に座ってくれるかな」
「はい」
警察の言葉に、俺達は声を出して頷いた。
長方形の机を囲むように、椅子が六つ横並びで置かれている。
警察と穂稀先生と草加の母親は、俺達から見て、テーブルの後ろ側にある椅子に横並びで座っているようだ。
三人の向かいに腰を降ろす。
俺から見てテーブルの後ろ側のとこじゃなくて、テーブルの前の端っこの席に草加がいるから、俺かあづのどっちかが草加の隣に座る羽目になった。
あづは何も言わず、草加の隣に腰を下ろした。
警察に俺のいじめのこと、喧嘩の経緯を話し終わった頃には、すっかり夜になっていた。
「草加くん、君は本当に、あづくんの頬を殴っただけなんだね?」
話を一通り聞いた後、警察はいった。
「だからそうですって」
「それならなんで彼は、こんなボロボロなんだ」
あづが手足を震わせて、ぎゅうっと俺の腕を掴む。
「知りませんよそんなの。こいつは喧嘩を始める前から怪我をしてました」
警察が相手だと、草加も流石に敬語だった。
「あづくん、腕の傷を、見せてくれるかい」
包帯が巻かれてる腕を背中に隠して、あづは必死で首を振る。
「そんなに警戒しないで。傷の状態を確認したいだけだから」
「い、嫌です」
あづは一向に傷を見せようとしなかった。
虐待の傷だもんな。そりゃ嫌だよな。
「……穂稀さん、ちょっと廊下で待っててもらえますか」
「え、どうしてですか?」
「亜月くんに、聞きたいことがあって。穂稀さんが亜月くんの代わりに答えることがあったら困るので」
警察はあづに、というのをやたら強調した。
十中八九虐待のことを勘づかれている。まあ親の腕を振り解いてるのなんて見たら、そりゃ気付くよな。
「わかりました」
穂稀先生が警察の言葉に頷いて、椅子から立ち上がって部屋を去る。
まあ、今わかりましたって言わなかったら虐待のことをさらに勘繰られるからな。そりゃ頷くよな。