死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「赤羽くん、何言ってるんですか」
「そんなこと言うなよ。死んだら何もかも終わりだ」
「だから、俺は終わらせたかったんだよ!」
声が枯れる勢いで叫ぶ。
殺されたかった。生かされたくなかったのに。
「……死んだら楽になんのか。あんたは死んだら幸せなのか? あんたは死ねたら喜ぶのか?」
やたらでかい声で、亜月は叫んだ。
「……ああ、そうだよ! 俺は生かせなんて頼んでない!」
負けじと叫び返そうとしたら間ができた。けれど、その理由は考えないことにした。
自分は殺されなきゃいけない。――それ以外は許されないのだから。
「ちょっと、二人ともやめなさい!」
看護師が俺と亜月に注意をする。それを無視して、亜月は言う。
「……お前、死にたいなんて思ってないだろ」
予想外の言葉に目を見開く。
――死にたいと思ってないだって?
「潤。あー、お前を助けた時、一緒にいた奴がいってたんだよ。飛び降り自殺は高ければ高いほどリスクが高くなる。それは逆に言えば、低ければ低いほど死なない可能性が高いってことだって。本当に死にたいなら、もっと高いとこから飛ぶんじゃねぇの?」
「……足場が悪かったから、低くても死ねると思っただけだ」
声が小さくなった。何でかはよくわからない。
「じゃあわざわざ俺達の目の前に落ちたのは? 反対側でもなんなら隣のビルのもっと上の階でもよかったよな。その方が死ねた」
「それは……」
探すのがめんどくさかったから、あそこにした。そのハズだった。実際めんどくさいと本気で思ってたハズなんだ。けれど、何故かそう言おうと思っても、声が出なかった。
――矛盾している。
死に場所を探すのがめんどくさいから、死ぬのもめんどくさいのではなく、死にたいのに探すのはめんどくさいなんて。
心の底から死にたいと思ってるなら、もっと確実に死ぬ場所を選ぶことだってできたのに。それなのに、俺はそうしようとしなかった。
めんどくさいとかではなく、たぶんまだ心のどこかで死にたくないと思っていたから。