死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
八章
自滅。
助けてと言ったら誰かが助けてくれるなんて、そんなの漫画の世界だけだ。
世界は残酷だ。俺が思ってるよりずっと。
俺は服の袖をめくって傷口を洗いながら、母親のことを思い出していた。
俺は今朝、奈々の家からそのまま学校に向かおうとしたら、なぜか母親に呼び出されて、病院に向かう羽目になった。
母親は病院の自動ドアの前で、俺を待っていた。
「なに」
「来て」
母親は病院の中には入らず、病院の駐車場に向かった。駐車場に停めてある自分の車の鍵を開けると、母親はドアを開けて車の中に入り、運転席に座った。
そうか。俺はここで虐待をされるのか。
病院の中じゃ、出来ないもんな。誰かが気づいたら洒落にならないし。
俺は敢えて、車の後部座席のドアを開けて、母親の後ろの席に腰を下ろした。
そうでもして物理的な距離を取らないと、なにをされるかわかったもんじゃないから。
「空我、昨日の夜はどこに行ってたの?」
「奈々の家」
「そう、赤羽くんのね。私のことは話してないわよね」
「話してねえよ。小遣いがなくなったとは言ったけど」
話したらあんたに怒られるとわかっていたからな。
「そう」
「母さん、真面目に小遣い欲しいんだけど」
小遣いは三日前からもらえていない。
いつまでも奈々の家に泊まるのは無理だし、そろそろ本当にお金が欲しい。
「そうね……『お小遣いをください、お母様』とでも言って土下座したら、考えてあげる」
土下座ね。
俺ができないってわかってて言ってるんだろうな。
果たしてこれが実の息子に対する態度なのだろうか。いや、間違いなく実の息子に対する態度ではない。
「実の子供に土下座をさせるなんて、母さんは神様にでもなったつもりなの?」
「ううん。私はただ、空我で遊びたいだけ」
さらっととんでもないことを言われた。
「俺は母さんのおもちゃじゃないんだけど」
「おもちゃよ、あんたは私の。だってあんたは、私の所有物なんだから」
ハハ、所有物ね。
俺は子供だとすら思われてないわけ。
運転手席にいた母さんが立ち上がって、俺の目の前に来る。……後ろの席に座った意味なかったな。
母さんが後部座席の窓のカーテンを閉める。
俺に暴力を振るっているとこを誰にも見られたくないから、そうしたんだ。