死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
母さんは、虐待の一環として、俺に外での生活を強いている。
初めて家を追い出されたのは、中学一年生の時。父親が転勤から帰ってくるから、父親が家にいる間だけ、外にいてと言われた。その時は父親が三日間だけ家にいることになっていたから、三日だけなら友達の家に泊まれるだろうと思って、俺は渋々それを了承した。
そしたら、それが罠だった。
母さんは約束を破った。約束通り三日が経っても、俺を家に入れてくれはしなかった。結局、母さんが俺を家に入れてくれたのは、追い出されてから一ヶ月後のことだった。
それから俺は少なくとも半年に一回以上の頻度で家を追い出されている。母さんが俺を外に締め出す期間は安定してなくて、最短一ヶ月で、最長九ヶ月ほどだ。
その九ヶ月というのは、俺が一月に締め出されてから九ヶ月が経ったということなので、このまま締め出されたままだったら、期間はどんどん伸びる。
母親が一月に俺を追い出したのは、俺が受験に失敗して、滑り止めの私立の高校に受かったから、らしい。
頭が悪い子は家に入る資格もない、というのが母親の言い分だった。多分あんな母親でも医者は医者で、高学歴ではあるから、子供も高学歴でいて欲しかったんだろう。まあ虐待をしておいて高学歴でいろなんて、矛盾しているにも程があるのだが。
「母さん、俺が受験に落ちたのは……」
「何? 私のせいだって言いたいの? 違うわよ。だってあんたは、私と一緒にいた時間より、家に独りでいた時間の方がよっぽど長いじゃない」
『それでも毎日のように虐待を受けていたら、そのことで頭がいっぱいになって、勉強どころじゃなくなるだろうが!』なんてことを思ったが、本当にそう言ったらまた暴力を振るわれそうだったので、俺はただただ口を噤んだ。
「わかったよ。帰らなければいいんだろ、帰らなければ」
投げやりに言った俺の頭を、母さんは優しく撫でた。
「さっすが私の空我。聞き分けがいいわね」
涙が頬を伝う。
頭を撫でないで。優しくしないで欲しい。
そんな風にされたら、いつも母さんが俺に暴力を振るうのは、俺に何か問題があるからなんじゃないかと思ってしまうから。その問題が解決すれば、母さんは俺にとても優しくしてくれるんじゃないかと思ってしまうから。
本当はそんな問題なんて、ありもしないのに。