死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
「……っ」
母親のことを考えていたら、涙が流れた。
涙が頬を伝い、床に落ちる。
後で拭かないと。
ティッシュどこにあんだろ。潤の家だから、わかんないんだよな。
「はぁ……」
壁に寄りかかって、ため息を着く。
俺、何か悪いことしたのかなぁ……。
俺が髪を染めたり喧嘩をしたりして不良ぶりだしたのは虐待が始まった後だから、俺が不良なのは、虐待をする理由にはなんないんだよな。
それなら他に思い当たることは、父親と血が繋がってないことくらいだろうか。
でもそのことが理由なら、そもそもなんで俺を産んだんだよ。
暴力を振るうくらいなら、降ろせばよかっただろうが。
降ろすよりは産んで虐待をした方がマシだと思ったのか。
もしもそうなら、あの母親は本当に救いようがない。
そしてそんな母親に愛されたいと、優しくされたいと心のどこかで思ってしまっている俺は、母親以上に救いようがない。
嗚呼、終わっている。クソだクソ。
……なんで俺、こんなに母親からの愛を求めてるんだろう。
なんて、本当はそんなの考えなくてもわかりきってる。
一人っ子で、父親と血が繋がってない俺は、父親とはどうしても仲良く出来ないから、それならせめて母親と仲良くなりたいと思った。
母親だけは、俺の味方で欲しかった。それなのに神様は残酷で、あの母親は俺の味方に少しもなる気はないらしい。
でも時々、優しくはしてくれるんだよな。
今日も虐待をした後に、手当はしてくれたし。
……アホ。手当をしたのは虐待がバレないためだろうが。
「はぁ……」
「あづ結構時間かかってるみたいだけど、大丈夫かー?」
ドアをノックして、奈々が洗面所の中に入ってくる。
「あ、奈々」
涙を拭いながら、慌てて振り向く。
奈々は片方の手を腰に回して、何も言わずに俺を抱きしめた。
「なんで」
「えーだってあづ昨日からずっと元気ねえじゃん。怜央と一緒にいた時もあんま楽しくなさそうだったし。だから、こうしたら少しは元気になるかと思って」
「なんで元気がないのか聞かないのか」
「だって聞いて話してくれるような内容だったら、とっくに言ってるだろ」
「奈々……ごめん。もうちょっと、待って」
お前らに虐待のことを隠し通すことなんてできない。
俺はいつか、お前らに全てを話さないといけない。
でもそれは今じゃない。今はまだ、全てを話す勇気がないから。
「ん。待ってる」
そう言って、奈々は笑って俺の頭を撫でた。